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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)257号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、第一引用例記載の技術及び本願考案の実用新案登録出願前周知の技術の認定を誤り、かつ、本願考案と第一引用例ないし第三引用例記載の技術及び右周知の技術との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願考案をもつて右各引用例記載の技術及び右周知の技術に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の右主張は、理由がないものというべきである。

前記本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証の二(昭和五四年一一月二六日付手続補正書―図面)及び第二号証の四(昭和五九年七月一一日付手続補正書―全文訂正明細書)を総合すると、(1)本願考案は、金属ガスケツト、特に、シリンダヘツドとシリンダブロツクとの接合面等のシール部のシールを果たす金属ガスケツトに関するものであるところ、従来は、例えば、内燃機関のシリンダヘツドガスケツトにおいては、通常、金網あるいはフツク付金属板にアスベスト又はゴム混和物を被覆したガスケツト用シート又はアスベストとゴム混和物シート等の柔軟材シートを所定の形状に打ち抜いてなる構造のものがほとんどであつたが、その中でも特に高負荷機関のシリンダヘツドガスケツトにおいては、機関の作動中、燃焼室は高温となり、その周辺に位置するウオータジヤケツト通路等の低温部とでは著しい温度差を生じ、この温度差から接合面に熱歪みが生じ、シール部の面圧に部分的差異が発生するものの、シート状ガスケツトが平面的構造であるとともに、高温部の熱によつて弾性力が低下するところから、これら接合部の歪みを吸収することができず、面圧の低下した部位からのガスの吹き抜け、又は冷却水や油の漏れを生ずる等シール効果が減退する欠点があつたこと、(2)本願考案は、右の欠点を解消して、シール部の面圧に部分的差異を生じた場合でも、接合面の歪み、ガスケツトのへたり等を吸収し、所定の面圧を保持するとともに、副板を硬性金属薄板により形成してビードを副板に対して良好に滑動させて追従性を向上させ、しかも、軟質材からなる表面材によつて接合面の歪みを補償してシール効果の安定を図る金属ガスケツトを実現することを目的として、本願考案の要旨のとおり(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)の構成を採用し、所期の目的を達成したものであること、(3)本願考案は、右の構成を採用したことにより、例えば、シリンダヘツドとシリンダブロツクとの接合面に介在された金属ガスケツトにおいては、ビードの弾性力によつて接合面に所定の面圧を保持し、これにより安定したシール効果を得ることができ、また、副板は硬性金属薄板により形成されているので、ビードの滑動を許容して追従性を向上させ、ビードの有する潜在押圧力を効果的に発揮せしめ、シール効果を維持することができ、更に、シール部の熱歪みに対して基板に形成したビードにより弾性的に歪みを吸収するので、シール効果が安定的であり、締結時の機械的歪みをも吸収可能であり、更にまた、表面材は軟質材により形成されているので、接合面のなじみを良好にするとともに、接合面の熱歪み、ツールマーク、傷等の不整面を軟質ミクロシールにより補償することができ、なお、接合面には硬性の基板に形成したビードによつて損傷を与えるおそれを回避することもでき、なおまた、全構成品が金属で構成されているので、熱伝導率が良いばかりか、原材料のリサイクル効果を有するとの作用効果を奏するものであることが認められる。他方、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例は、本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された実用新案公報であり、それには、(1)第一引用例記載の技術は、内燃機関用填隙「パツキング」、すなわち「ガスケツト」に関するものであつて、別紙図面(二)に示すように、波形に屈曲した金属薄板(3)の両側に薄い金属平板(4)を圧接して基板(A)を形成し、これに「シリンダー」部分の透孔(1)を穿設したことを特徴とする「ガスケツト」の構造に係るものであり、なお、透孔(1)の周縁部には従来のものと同様の縁金(5)を被覆してガス及び水の遺漏を防止し、また、外部に現れる薄板(4)の面には被覆を施して耐熱防蝕性を付与したものであること、(2)第一引用例記載の技術は、中間に波形の屈曲薄板(3)を介在させたことにより、基板(A)に「パツキング」として所要の圧縮応力を十分に付与することができ、したがつて、従来のガスケツトとして不可欠のものと思惟されていた石綿を挟在せしめることなく、気密を確実かつ持久的に保有することができ、殊に、従来のガスケツトは、熱の不良導性である石綿を使用していたため、蓄熱して表面金属が腐蝕されやすく、ひいて、寿命を短くしていたが、第一引用例記載のものは、前記構造に由来し熱の発散が容易であり、従来のものに比し、その有効な使用寿命を著しく長くすることができたものである旨記載されていることが認められる。

そこで、以上認定の事実に基づき、本願考案と第一引用例記載の技術とを対比考察するに、両者は、いずれも金属ガスケツトに関するものであるところ、第一引用例記載のものにおける波形金属薄板(3)は本願考案の基板に、前者の波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)は後者の副板に、前者の外部に現われる薄板(4)は後者の表面材にそれぞれ該当するものと認められるので、本願考案における用語に従つて説明すると、両者は、金属薄板にビードを形成した基板によりシールを果たす金属ガスケツトにおいて、基板面には金属薄板により形成した副板を設け、副板面上には表面材を設けた点で一致し、(1)本願考案では、ビードを基板に設けたボアを囲繞するように形成しているのに対し、第一引用例記載のものでは、ビードを基板の全面にわたつて形成している点、(2)本願考案では、基板及び副板を構成する金属薄板として硬性のものを用いるとともに、表面材として軟質のものを用いているのに対し、第一引用例記載のものでは、基板及び副板を構成する金属薄板並びに表面材の硬さが不明である点、(3)本願考案では、表面材の面上に保護用の被膜を施していないのに対し、第一引用例記載のものでは、表面材の面上に耐熱防蝕性の被膜を施している点において相違するものと認められるから、以下右相違点について順次検討することとする。(1)右相違点(1)について 成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された特許公報であり、これには、金属薄板よりなる基板に設けたボアを囲繞してビードを形成したガスケツトの基板に関する技術が開示されていることが認められ、右の技術事項に基づき、第一引用例記載のもののようにビードを基板の全面にわたつて形成する代わりに、本願考案のようにビードを基板に設けたボアを囲繞するように形成することは、当業者であれば、極めて容易に想到することができたものというべきである。(2)右相違点(2)について第一引用例記載の技術に関する前認定の事実及び前掲甲第三号証中の第三図(別紙図面(二)の第三図)によると、第一引用例記載のガスケツトは、波形金属薄板(3)、波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)(以下「最内層の平板」ともいう。)、外部に現れる薄板(4)(以下「最外層の平板」ともいう。)(なお、その一部が縁金(5)を形成している。)、及び波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)と外部に現れる薄板(4)とに挟まれた金属平板(4)(以下「中間層の平板」ともいう。)の四層によつて構成されており、最内層の平板は波形金属薄板(3)の弾発力を受けてこれを中間層の平板を介して最外層の平板に送り出し、最外層の平板は波形金属薄板(3)から送り出された弾発力を受けてシール面(最外層の平板が接合する相手の面)との密着性を図り、中間層の平板は最内層の平板が受けた波形金属薄板(3)からの弾発力を最外層の平板に伝達する機能を有するものと認められるところ、第一引用例には、右の最内層、最外層及び中間層の各金属平板(4)の材質については明示されていないが、これら金属平板(4)の右機能に照らし、これら金属平板(4)には、それぞれその機能を果たすのに適した材質が用いられているであろうことは、以下に述べるところから、容易に理解し得るところである。すなわち、まず、最外層の平板については、シール面との密着性を図る機能を果たすためには、その表面材を軟質金属をもつて形成することがむしろ技術常識であつたということができ、また、成立に争いのない乙第二号証(昭和一四年六月一二日出願、昭和一五年七月三〇日公告の昭和一五年実用新案公告第一〇三六九号実用新案公報)によれば、第一引用例記載の考案の実用新案登録出願当時、金属ガスケツトの表面層に軟質金属である銅と同様の特性を持たせた同じく軟質金属であるアルミニウムを用いた技術が存したことが認められるところであつて、このことからも、第一引用例記載のガスケツトの最外層、すなわち、外部に現れる薄板(4)が銅やアルミニウムなどの軟質金属であつたであろうことは、容易に推認し得ることというべきである。次に、最内層の平板については、波形金属薄板(3)の弾発力を受けてこれを中間層の平板を介して最外層の平板に送り出すという前述の機能に照らし、硬性の金属平板からなるものであろうことも、容易に推測することができたものというべきであつて、このことは、逆に、最内層の平板が軟質材料であるとすると、波形金属薄板(3)のビードがこれに食い込み、所要の圧縮応力の維持が必ずしも十分にできないばかりか、外部に現れる薄板(4)に対しほぼ均等に分布した応力を付与し得ないおそれが生じることからも明らかであり、また、成立に争いのない乙第一号証(昭和四三年八月一日特許庁資料館受入れの英国特許第一、一一四、二〇〇号明細書)によれば、金属ガスケツトにおいて、波形金属薄板に硬性金属薄板を当接させることが本願考案の実用新案登録出願当時周知の技術であつたものと認められ、このことからも、当業者であれば、第一引用例の記載をみた場合、最内層の平板、すなわち、波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)が硬性の金属平板からなるものであるとの示唆を受けるであろうことは明らかであるといわざるを得ない。更に、中間層の平板については、最内層の平板が受けた波形金属薄板からの弾発力を最外層の平板に伝達するという前述の機能に照らし、硬性か軟性かを問わないものと認められる。なお、第一引用例記載の技術に関する前認定の事実によると、波形金属薄板(3)は、波形の屈曲(2)を有する形状によつて、基板(A)にパツキングとして所要の圧縮応力を十分に付与せんとするものであるから、硬性の金属板であることが明らかである。してみれば、第一引用例記載の波形金属薄板(3)(本願考案の基板に相当)及び波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)(本願考案の副板に相当)を構成する金属薄板として本願考案のように硬性のものを用いるとともに、第一引用例記載の外部に現れる薄板(4)(本願考案の表面材に相当)として本願考案のように軟質のものを用いることは、当業者であれば、必要に応じ極めて容易になし得ることというべきであり、また、成立に争いのない甲第五号証(第三引用例)によれば、第三引用例は、本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された実用新案公報であつて、それには、鋼板製リングよりなる硬性金属板製基板の面上に、耐熱耐蝕性があり密封性が大なる軟質金属薄板製リングよりなる軟質の表面材を設けた金属ガスケツトに関する技術が記載されていることが認められ、右技術事項に基づいても、当業者であれば、第一引用例記載の外部に現れる薄板(4)として本願考案のように軟質のものを用いることは、極めて容易になし得るものということができる。(3)前記相違点(3)について第一引用例記載のもののように表面材の面上に耐熱防蝕性の被膜を施すことなく、本願考案のように表面材とすることは、当業者であれば、必要に応じて極めて容易になし得ることというべきである。続いて本願考案の作用効果について検討するに、以上の認定説示に照らせば、本願考案の構成によつてもたらされる作用効果は、第一引用例ないし第三引用例記載の技術及び周知の技術から当業者が当然に予測をすることができるものであつて、格別顕著なものと認めることはできない。以上のとおりであるから、本願考案は、右各引用例記載の技術及び周知の技術に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認めるのが相当である。原告は、第一引用例には、材質の硬軟を限定した副板及び表面材並びにその組合せの技術的思想の開示はなく、その開示があるとした本件審決の認定は誤つている旨主張するが、第一引用例記載の波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)が本願考案の副板に、外部に現れる薄板(4)が表面材にそれぞれ相当するものであるところ、第一引用例には、右の各部材の硬軟について明示的な記載はないが、第一引用例の記載内容及び周知の技術に照らし、波形金属薄板(3)に接する金属平板(4)が硬性であり、外部に現れる薄板(4)が軟質であるであろうことは、当業者であれば、容易に推認し得るものというべきことは、前認定説示のとおりであり、したがつてまた、第一引用例には、硬性の副板及び軟質の表面材の組合せの技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があるものということができ、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、第一引用例から被告が主張するような技術事項を読み取ることはできない旨るる主張するが、たとい、被告が主張する技術事項中に第一引用例から読み取ることができないものがあるとしても、第一引用例の記載内容は前認定のとおりであつて、これと前認定のそのほかの技術とに基づき当業者が本願考案に極めて容易に想到し得ることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、本件審決の結論に影響を及ぼすべき事項に関するものではなく、採用の限りでない。更に、原告は、基板と副板とを構成する金属薄板の硬さが硬くなるほど副板に対する基板に形成したビードの滑動性と追従性が大になることは、当業者にとつて周知のことであるとした本件審決の認定は誤つている旨主張するところ、本件審決の右認定事項を直接証するに足りる証拠はないが、本願考案と第一引用例記載の技術とのこの点の相違点に関する本件審決の判断がその結論において相当であることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、結局、本件審決の結論に影響のない事実認定についてその不当をいうものにすぎず、採用するに由ないものといわざるを得ない。更にまた、原告は、本願考案の進歩性を否定した本件審決の判断は誤つている旨主張するが、右判断が是認し得るものであることは、前認定説示のとおりであり、したがつて、原告の右主張も、採用することができない。

(結語)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

硬性金属薄板にビードを形成した基板によりシールを果す金属ガスケツトにおいて、前記基板のビードをボアを囲繞して形成し、前記基板面には硬性金属薄板により形成した副板を設け、この副板面上には軟質の表面材を設けたことを特徴とする金属ガスケツト。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

(以下省略)

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